初即と哀情と童貞卒業

 

2月17日。金曜日。

 

 

これまでの丸5日間、ナンパの中毒性のある快楽と不安や焦りに駆られほぼ終電後しばらくまでストリートに立ち続けていた。

 

 

初の連日に続き本格的なナンパノックを決行したおかげか、調子は上々で連れ出しこそはあまりできなかったが番ゲ効率は初期に比べると著しく向上していた。

 

少しの高揚感と共に夜風に吹かれて早足で街を歩いた。

 

 

 

終電前3声かけ目(このくだりはくだらない反省なので飛ばして読んでいただいてもかまいません)。

 

 

後ろ姿を見て早速声をかける。

 

『こんにちは^ ^』

 

顔を見た途端少し後悔した。

年齢こそは若めだったが目が隠れてしまうほど前髪が長く、恋愛には無頓着そうな子だなと察した(40くらいのおばさんはざらでまれにおばあちゃんに声かけをかましてしまうこともあり少し萎えるのでどうにかしたい)。

 

一応話を聞くとこれからカラオケに行く途中らしかったのでついていってみることした。

 

そのとき心の中では、続けていれば必ず即れるからなるべく可愛い子で卒業したいという余裕と、童貞である自分に嫌気が差していてなんなら誰でもいいという焦りが拮抗していたので少し複雑な心境だった。

 

しかしその迷いは妥協に変わった。

 

なんと部屋に入るなり英語のわけのわからない洋楽を歌いはじめたのだ(ちょっとかっこよかった)。

 

一時放流しようかと考えたが、そのときの僕はその判断を瞬時に下せるほど経験を積んでいなかったし、個室連れ出しなのでうまくいけばギラつけるチャンスはあると希望的観測をした。

 

その考えも束の間、安室奈美恵やレディーガガをノリノリで歌いはじめたのでここでギラつくのは無理だなと改めた。和みすらゆっくりできそうになかったのだ。

 

 

僕も歌った。

 

 

終わった後、終電グダを少し押し20分だけという約束でバーに入った。

 

話を聞くつもりが焦りが生じて口説くような形で少し喋りこんでしまったので後から後悔した。

 

経験人数を聞き出したりハンドテストもクリアしたが、やはり20分経つとそんなつもりではなかったグダが生じ、バス停まで小走りさせられ見送った。

 

時間もお金も無駄にしてしまったので、次からは早めに損切りをしようと心に誓ったできごとだった。

 

 

久しぶりのカラオケは楽しかったけど。

 

 

 

終電後、10声かけ目。

 

 

帰ろうかなという気持ちに少し心が傾いていたころ。

 

 

前方からワイドパンツに小腸の柔毛のような変なモコモコしたジャケットという最近よくお目にかかるコーディネートをした女の子が歩いてくるのを目にした(僕はそのジャケットを“柔毛ブルゾン”と呼称している。柔毛ブルゾンを着た子を見かけるとすかさず声をかける。なぜか大概反応がいいのだ。ワイドパンツの子もわりかし反応がいい。あるあるではないだろうか)。

(後に知ったことだがボアジャケットというらしい。)

 

オープン。飲み帰りで少しほろよいのご様子だった。

和み、話を聞くとネカフェに泊まるところらしい。

 

もしかしてこれは、と思った僕はどうせならラブホに入ってみたかったのでついてくるよう打珍してみた。

 

通った。

 

それだけだった。

 

なぜか冷静だった僕は、柔毛ブルゾンをハンガーにかけてあげたり脱がすとき畳んであげたり、見つめあったりこまめにキスをしてあげたり、ただ抱いてあげたりクンニもしてあげたりと知らないながら優しくしようと気を遣って頑張った。

 

彼女はフェラもしてくれたし、騎乗位もしてくれた。

 

最後は正常位をしてしばらく抱いた。

 

 

二回して果てた。

 

 

 

ピロートークでは、

地元は牡蠣だが以前まで彼氏と同棲で関東に住んでいて別れたので帰ってきた元風俗嬢だということ、半年ぶりのセックスでナンパされたのは初めてだということ、年齢は適当に3、4歳詐称する僕だがそれよりも少し年上だということ、最近気になる人がいてその人にバレンタインデーのチョコをあげた、などの話を聞いた。

 

 

彼女はひと通り話し終わると寝てしまった。

 

 

僕はなぜか何時間経っても眠ることができなかった。

 

 

薄暗い中、天井をぼんやりと眺めて、

少し光が差し込んでくると、小鳥が鳴くのを聞いて、

辺りが明るくなってくると、おなかが空くのを感じた。

 

 

そのときはただ全てが急に過ぎ去って頭があまり追いついていかなかったんだとおもう。

 

 

薄っぺらな即だったけど楽しかった。心が満たされた。何より初めて女性に認められた感じがした。

 

 

彼女は、9時前頃に起きた。

 

僕は、喉が渇いてるだろうからと水を渡した。

 

彼女は、シャワーも浴びずに着替えた。

 

僕は、川沿いの洒落た店で朝ごはんをたべよと言った。

 

彼女は、帰って食べるからいいと断った。

 

 

僕らは、口数も少なめにホテルを出た。

 

 

次は健全デートをしてみたかったけどなんだか気まずくて、LINE教えてと言えなかった。いつも言えるのに。

 

 

 

僕らは、口数も少なめにさよならを告げた。

 

 

 

僕は、少し歩くと何を期待したのか振り返ってみた。

 

 

 

僕は、しばらく立ち尽くしていたけど寒さと空腹を感じると踵を返した。

 

 

 

下を向いて歩いていたので大きく空を仰ぎ見てみる。

 

 

 

そのときの僕には青空は眩しかった。

 

 

うんざりするほど。